オーナーシェフ澁谷昌孝さんの写真

洗練された空間でフレンチと焼鳥が融合した料理を楽しめる「SHIBU nishinakasu(シブ ニシナカス)」。オーナーシェフ澁谷昌孝さんに、独立の地に福岡を選んだ理由や食材の追求、ここでしか体験できない特別な演出などについてお話を伺いました。

高級ホテルやレストランで研鑽を積み、フレンチを極める

2018年、数々の食の名店が集まる中央区西中洲に「SHIBU nishinakasu」がオープンしました。オーナーシェフの澁谷さんは、長年ホテルやレストランでフランス料理を手がけたのち独立。福岡で出会った鶏の食文化とフレンチが融合したほかにはない料理を提供しています。
京都出身の澁谷さんは、両親の友人の料理人に誘われて食の道へ。経験もないままホテルのバンケットの厨房で働くようになりました。「合わなかったら辞めようというくらいの気持ちで入ったのですが、少しずつ技術が身に付くのを実感できるのが楽しかったんです。上司にも恵まれ、基礎を覚えた頃にはこの世界を極めたいと思うようになりました」。京都のホテルで腕を磨き、次のステップとして“大阪の迎賓館”と称される「リーガロイヤルホテル」のレストランへ。そして、すべてにおいて最高級を感じられる佇まいに魅せられ、「ザ・リッツ・カールトン大阪」のレストランに移り、その後、総料理長とともに「ザ・リッツ・カールトン東京」の立ち上げに携わりました。

澁谷さんが次に携わったのは「東京ディズニーランド」などを運営する「オリエンタルランド」のレストラン部門。各界のVIPが訪れる非公開のフレンチレストランで料理を手がけたほか、メニュー開発なども行っていました。

オーナーシェフ澁谷昌孝さんの写真
柔らかな物腰の澁谷さん。高級店でありながら訪れやすい雰囲気も魅力です。
シブ ニシナカス店内の写真
西中洲のビルの一室に位置する店舗。開けるのをためらう扉の先に、大人の空間が広がります。

豊かな食材に惚れ込み、福岡の地で独立

数々の華麗な経歴をもつ澁谷さんは、満を持して独立へ。その時、店を構える地として選んだのは食の都・福岡でした。「最初は東京に出店しようと考えていました。その気持ちが変わったのは、遊びに来ていた福岡で鶏肉を食べた時です。スーパーで購入した鶏を調理しただけなのですが、鮮度のよさや味のよさに驚きました。気軽にこんな食材が手に入るなら、きっと追求すればもっとレベルの高い食材があるはずだと思い、こちらで挑戦してみることに決めました」。

串ものの写真
串もの“ブロシェット”。ねぎま、ささみ、皮、手羽の4種が提供されます。

そして2018年に西中洲に開いたのは、フランス料理と鶏料理を融合し、コーススタイルで提供する店。「私が福岡で開業するきっかけになった鶏料理で勝負したいと思いました。ただ、普通の焼鳥では老舗に叶わないだろうと思い、フレンチと焼鳥を融合させたら面白いのではと考えました。開業した当時はそういったスタイルの店を見かけなかったこともあり、福岡の方にも『こういうお店を待っていた』と言っていただけたので、やっていけるのではと思いました」と澁谷さんは振り返ります。

これまでになかったフレンチ×鶏料理が融合したコース

「SHIBU nishinakasu」のメニューは「本日のコース」のみ。トリュフやアミューズ、前菜に始まり、魚料理や肉料理、スープなど、ひと通りのフランス料理に続いて鶏料理が提供されます。福岡が誇る銘柄鶏「はかた地どり」や「はかた一番どり」の朝引きを、最高級と名高い土佐備長炭で焼き上げた鶏料理。串に刺した“ブロシェット”4種、ひと口サイズの焼鳥“ブッセ”9種で、鶏一羽のほとんどの部位を味わうことができます。

前菜の写真
本日のコースの前菜の一例。季節の素材を使うため、コースのフランス料理のパートは月替わりです。
ブッセの写真
ひと口サイズの“ブッセ”。せせり、ぼんじり、砂肝、ハラミなど9種の部位を味わうことができます。

使用する食材は糸島産の魚介や野菜など九州産を中心としながら、ゆかりのある高知県産のミョウガやトマト、四万十豚などが用いられることも。素材の味や鮮度にこだわる澁谷さんは、生産者のもとを訪れ、想いを聞いたうえで仕入れを行う手間を惜しみません。「情熱をもった生産者さんが多く、その想いを聞いているとおいしく料理しなければと思います。またその想いをお客さまに伝えるのも私の役割です」。素材の一つひとつがもつストーリーを聞きながら味わう料理は、より一層おいしく感じることでしょう。

ゲストの記憶に残る、特別な演出も魅力

そして、この店ならではの特別な演出も訪れる人々を惹きつける理由です。まずは箸を選ぶことからスタート。高級ブランドや星付きレストランで使われている香川県「Bo Project」の箸が12色用意されています。食事に使った後は持ち帰り用に箱に入れてもらうことができ、すでに全色をコンプリートした常連もいるのだとか。また鶏料理を味わうための塩は、ずらりと並ぶ25種から好きな5種を選ぶことができます。日本のみならず世界各国から集められた塩は多種多様。生産地に想いを馳せ、味を想像しながら塩を選ぶことも楽しそうです。

Bo Projectの箸の写真
好きな色を選んで持ち帰れる箸は、現在の12色に加え、さらに12色が追加されました。
25種の塩の写真
天日塩やマグマ塩、藻塩、抹茶塩など、どれも使ってみたくなる25種の塩。悩む時間も楽しいひと時です。

おいしいはもちろん“楽しかった”という言葉が励みに

ここ数年の大変な時期も乗り越え、もうすぐ5周年を迎える「SHIBU nishinakasu」。すでに福岡で訪れたい店のひとつとして、地元の人々や福岡を訪れる人から愛される存在となっています。「料理をおいしく味わっていただくことはもちろん、居心地のいい空間を作ることをこれからも大切にしていきたいですね。“今日は楽しかった”と言っていただけることが一番の誉め言葉です」と澁谷さん。この場所を守りつつ、若い世代向けの店舗の構想もあるそうなので、今後の展開にも期待が膨らみます。